総合点

総合ランク
成分数
植物エキスの数
コスパ
安全性
素材の品質
洗浄剤の品質
洗浄力
髪補修力
育毛力
使用感の良さ
エイジングケア
ホワイトニング効果
保湿効果
スキンケア力
環境配慮
浸透力
即効性
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メーカー
P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)ブランド
h&s容量
350ml参考価格
874円1ml単価
2.5円JAN
4987176271204ASIN
B0D9VXSNCC発売日
2024-10-25ID
10940全成分
解析チームです。世界売上No.1*¹を誇り、を掲げるP&Gのh&s。その名を知らない人はいないでしょう。特に男性向けの「h&;s for men」シリーズは、フケやかゆみ、ベタつきといった男性特有の悩みに応える救世主として、多くのドラッグストアで圧倒的な存在感を放っています。今回我々がメスを入れるのは、その中でも「リンス不要、1本で完結!」という手軽さを謳う「h&s for men 2in1 リンスインシャンプー」。世界的な頭皮ケアのエキスパートが送り出すこの一本は、本当に我々の頭皮を健やかに導いてくれるのでしょうか?それとも、その輝かしいブランドイメージの裏には、消費者が知るべきでない「不都合な真実」が隠されているのでしょうか。我々は今回、その成分の深淵へとダイブし、広告の言葉だけでは見えてこない製品の本質を徹底的に解き明かしていきます。
(*¹ P&G調べ h&s for men 新製品プレスリリースより)
結論から申し上げましょう。このシャンプーは、我々の解析データベース3082製品中、総合ランク3036位、総合評価は5点満点中わずか0.38点という衝撃的な結果を叩き出しました。これは全製品の下位1.5%に位置することを意味し、専門的な視点から見れば市場に存在するべきではないレベルと言っても過言ではありません。特筆すべきは、5点満点で評価される洗浄力がスケールを振り切り5.6点を記録した一方で、髪補修力は0.3点、保湿力も0.3点と、ケア性能は無に等しいレベルです。これは、製品が「ヘアケア」ではなく、もはや「洗浄」という一点にのみ極端に振り切った設計であることを物語っています。
この極端な性能バランスを視覚的に理解するために、以下のグラフをご覧ください。製品の各性能項目をレーダーチャートで示しています。「洗浄力」だけが異常に突出し、他の全ての項目が中心に張り付いている様子が、このシャンプーの歪な性格を雄弁に物語っています。
にもかかわらず、ECサイトでの口コミ評価が5点満点中4.1点と比較的高いのは、この強烈な洗浄力がもたらす一時的な「さっぱり感」や「1本で済む手軽さ」が、成分の知識を持たない一般消費者に評価されているからに他なりません。多くのユーザーは、洗髪後の爽快感を「汚れがしっかり落ちた証拠」と誤解しがちですが、その裏で頭皮と髪がどのような代償を払っているのか、知る由もありません。この恐ろしいギャップこそが、本製品の最大の問題点と言えるでしょう。これは果たして「スカルプケア」なのでしょうか、それとも単なる「強力な脱脂剤」なのでしょうか。次の成分分析で、その正体を明らかにしていきます。
このシャンプーの性格は、配合されている成分を見れば一目瞭然です。ここでは、そのキャラクターを決定づける主要な5つの成分を、専門家の視点から深掘りしていきます。これらは単なる成分リストではなく、製品の思想そのものを映し出す鏡です。
本製品の洗浄力の根幹をなす、最も警戒すべき成分です。ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate, SLS)は、分子量が小さく皮膚への浸透性が高いため、非常に強力な脱脂作用を持ちます。その洗浄力は、時に工業用洗浄剤や、研究機関で皮膚のバリア機能を意図的に破壊し、皮膚炎モデルを作成する実験に用いられるほどです。学術研究においても、SLS(論文中ではSDSとも表記)が角質層のタンパク質を変性させ、細胞間脂質を溶出させることで、皮膚バリア機能を著しく低下させることが広く報告されています*1, 。これが頭皮に適用された場合、必要な皮脂や天然保湿因子(NMF)まで根こそぎ奪い去り、深刻な乾燥、かゆみ、炎症を引き起こす直接的な原因となり得ます。まさに、頭皮の生態系を根底から破壊しかねないブルドーザーのような存在です。
(*1) Profile of irritant patch testing with detergents: sodium lauryl sulfate... (PMID: 12641575)
(*2) Skin Barrier Disruption by Sodium Lauryl Sulfate-Exposure Alters... (PMID: 16433787)
一般的にラウレス硫酸Na(Sodium Laureth Sulfate, SLES)として知られ、上記のSLSに酸化エチレンを付加重合(エトキシル化)して分子を大きくした成分です。この化学修飾により、SLSの強力な皮膚刺激性は多少緩和されています。研究によれば、SLESの皮膚刺激性はSLSよりもはるかに穏やかであることが示されています。しかし、それはあくまで「SLSと比較して」の話であり、洗浄力自体は依然としてトップクラスの強さを誇ります。つまり、刺激は減っても、頭皮を乾燥させるリスクは健在です。さらに深刻な懸念が、製造過程で副生成物として「1,4-ジオキサン」が混入する可能性です。米国環境保護庁(EPA)や米国国家毒性プログラム(NTP)は、1,4-ジオキサンを「ヒトに対して発がん性がある可能性が合理的に予測される物質」として分類しており、長期的な使用には一抹の不安が残ります。もちろん、製品に含まれる量は微量ですが、毎日使うものだからこそ考慮すべきリスクです。
(*3) sodium lauryl sulfate (SLS) versus sodium laureth sulfate (SLES) (PMID: 11278060)
(*4) 1,4-Dioxane in Cosmetics: A Manufacturing Byproduct - FDA
本製品が「薬用」を謳う根拠となる有効成分です。フケやかゆみの一般的な原因とされる常在真菌、特にマラセチア属菌(*Malassezia globosa*など)に対する優れた抗菌・抗真菌作用を持ちます。その作用機序は非常にユニークで、ジンクピリチオンが真菌の細胞膜を通過し、細胞内の銅イオン濃度を異常に上昇させます。この過剰な銅が、真菌の代謝に必須な「鉄-硫黄クラスター」を持つタンパク質を破壊することで、その増殖を強力に抑制します。この効果により、脂漏性皮膚炎などが原因のフケ・かゆみには確かに有効です。しかし、この強力な殺菌作用は諸刃の剣。健康な頭皮の常在菌バランス(マイクロバイオーム)まで乱してしまったり、長期連用によって耐性菌が出現するリスクも指摘されています。トラブルがない健康な頭皮に日常的に使用することは、かえって頭皮環境の恒常性を損ない、不安定にする可能性があるのです。
(*5) The antifungal mechanism of action of zinc pyrithione (PMID: 21919897)
(*6) リンスインシャンプーのおすすめ人気ランキング【2025年】 - mybest
この成分は、洗浄剤というよりは「可溶化剤」や「ハイドロトロープ剤」と呼ばれる助剤です。主な役割は、シャンプー液全体の粘度を下げて流動性を高め、SLSやSLESといった主力の高濃度な洗浄剤を水に均一に溶けやすくすること。これにより、豊かな泡立ちを促進し、洗い流しやすく、さっぱりとした使用感を生み出します。言い換えれば、この製品の「とにかく洗浄」というコンセプトを技術的に実現するため、洗浄成分の効果を最大限に引き出すための添加剤と理解してよいでしょう。それ自体に積極的なヘアケア効果はありません。
コカミドプロピルベタインとも呼ばれる両性界面活性剤で、この製品の中では唯一と言っていいほどの「良心」です。アニオン(陰イオン)界面活性剤であるSLS/SLESと組み合わせることで、それらの刺激を緩和し、泡質をよりクリーミーで持続性のあるものにする目的で配合されます。しかし、全成分表示の順番(水、SLES、SLSの次に来ることが多いが、この製品ではかなり後ろ)からもわかるように、その配合量はごくわずかであると推測されます。SLSとSLESという強力な洗浄成分が荒れ狂う中で、その刺激緩和効果は「焼け石に水」と言わざるを得ません。この製品の処方全体から見れば、その存在は刺激性に対するアリバイ作りのようにさえ感じられてしまいます。
(*7) コカミドプロピルベタインの基本情報・配合目的・安全性 - 化粧品成分オンライン
このシャンプーを評価するにあたり、メリットと呼べるものは極めて限定的です。まず、この製品がもたらす深刻なデメリットから見ていきましょう。これは単なる欠点ではなく、長期的な頭皮の健康を脅かす可能性のあるリスクです。
最大のデメリットは、頭皮の砂漠化を招きかねない、過剰すぎる脱脂力です。ラウリル硫酸Naとラウレス硫酸Naの強力タッグは、汚れや余分な皮脂だけでなく、頭皮の健康維持に不可欠なバリア機能(皮脂膜や角質細胞間脂質)まで根こそぎ洗い流してしまいます。皮膚科学において、皮膚バリアは外部からの刺激物の侵入を防ぎ、内部からの水分蒸散を抑制する極めて重要な役割を担っています。このバリアが破壊されると、頭皮は無防備な状態に晒され、乾燥が加速。結果として、潤い不足によるカサカサの「乾燥性フケ」や、失われた皮脂を補おうと逆に皮脂が過剰分泌される「インナードライ状態」を招く可能性があります。さらに、頭皮の常在菌バランス(スカルプマイクロバイオーム)が崩れることで、かゆみや炎症といった二次的なトラブルを引き起こすリスクも高まります。近年の研究では、SLSのような強力な界面活性剤への曝露が、皮膚マイクロバイオームの多様性を著しく変化させ、皮膚バリア機能の低下に直結することが示唆されています。
次に、「リンスイン」という名の幻想です。リンスやコンディショナーの本来の役割は、洗浄によってマイナスに帯電した髪の表面に、プラスの電荷を持つカチオン性ポリマー(ポリクオタニウムなど)や脂肪アルコールを吸着させ、キューティクルを整え、指通りを滑らかにすることです。しかし本製品の成分リストを見渡しても、それらしい本格的なコンディショニング成分は「高重合メチルポリシロキサン(ジメチコン)」程度。これも配合順から効果は限定的と推測され、実質的にはシリコンで表面的な手触りをごまかしているに過ぎません。これは、洗浄と保湿のバランスを緻密に調整する本来のリンスインシャンプーとは似て非なるもの。「リンス成分で髪をケアする」のではなく、「強すぎる洗浄力によるきしみを、シリコンで覆い隠す」という設計思想が見え隠れします。ダメージヘアの方が使えば、そのごまかしも効かず、洗い上がりのきしみに愕然とすることでしょう。
一方で、メリットを挙げるとすれば、その圧倒的な洗浄力と時短効果に尽きます。機械油まみれになった日や、固形のスタイリング剤を大量に使用した日など、とにかく一度で全てをリセットしたい、という特殊な状況下では役立つかもしれません。また、シャンプーとリンスを1ステップで完結できる手軽さは、多忙な現代人にとって大きな魅力に映るでしょう。しかし、それはあくまで短期的な利便性。長期的な視点で頭皮の健康を考えたとき、その代償はあまりにも大きいと言わざるを得ません。毎日使うデイリーケア製品としては、あまりにも攻撃的すぎるのです。
(*8) Understanding the Epidermal Barrier in Healthy and Compromised... (PMID: 28947834)
(*9) New Topicals to Support a Healthy Scalp While Preserving the... (PMID: 38545049)
さて、ここまでh&s for men 2in1 リンスインシャンプーを丸裸にしてきましたが、いかがでしたでしょうか。この製品を一言で表現するなら、「スカルプケアの仮面を被った、超強力な工業用レベルの脱脂剤」です。メーカーが謳う「6つの悩みにアプローチ」という言葉とは裏腹に、その処方はむしろ新たな悩みを生み出しかねない、極めてリスキーなバランスの上に成り立っています。フケやかゆみを抑えるために配合された薬用成分も、その土台となる洗浄基剤があまりに過酷なため、根本的な解決には程遠いと言わざるを得ません。もちろん、この強烈な洗浄力に満足感を得る方がいるのも事実でしょう。しかし、それは一時の爽快感と引き換えに、頭皮の未来を少しずつ削り取っている行為なのかもしれません。
あなたがもし、シャンプーに「洗浄力」というただ一つの機能だけを求め、髪と頭皮の潤いや健康をすべて犠牲にできるのであれば、この一本はあなたの期待に応えるかもしれません。しかし、5年後、10年後も健やかな髪と頭皮を維持したいと少しでも願うのなら、今すぐそのボトルを棚の奥にしまい、成分表示と向き合うことを強く推奨します。あなたのシャンプー選びの基準は、目先のさっぱり感ですか?それとも、長期的な頭皮の健康ですか?その答えは、あなたの手の中にあります。
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